1 はじめに 5年国語の教科書(東京書籍)に,漢字の由来についての小単元があります。この内容については,学習指導要領解説国語編第3節第5学年及び第6学年の内容1知識及び技能(3)我が国の言語文化に関する事項に次のように示されています。
ウ 語句の由来などに関心をもつとともに,(中略)また,仮名及び漢字の由来,特質などについて理解すること。 具体的には,仮名や漢字がどのように形成され,継承されてきたのかなどについて基本的な知識をもつこと,(後略)
2 教科書では ある教科書では,次のように示されています。
漢字の成り立ちには,次の4つがあります。 (1)物の形をかたどったもの(象形文字) 具体的な物の形を線で書き表した文字です。 (例)日,目,鳥 (2)ことがらを印で示したもの(指事文字) 数や位置関係など,具体的な形に表しにくい事柄を,点や線などを使って表した文字です。 (例)一,二,上,下,本 (3)意味を合わせたもの(会意文字) 漢字を組み合わせて,新しい意味を表すようにした文字です。 (例)岩,鳴 (4)音を表す漢字と意味を表す漢字を組み合わせたもの(形声文字) 一方が音を,もう一方が意味を表しています。 (例)板
3 漢字の由来の背景 「漢字がどのように形成され,継承されてきたのかなどについて基本的な知識をもつこと。」ということから, 単に漢字の成り立ちの種類が分かればよいというのではないでしょう。 ここでは,なぜ漢字が生まれてきたかということから考えたいものです。 「漢字の由来には,4種類あって,このように分類されています。」というような説明する授業より,子供が問いをもつ展開にしたいと考えます。
4 なぜ漢字が生まれたのか。 漢字の起源は,中国において2000年以上前に遡ります。つまり,それまで漢字は存在せず,話し言葉だけの世界だったのです。 では,タイムスリップしてその頃に戻ってみましょう。話し言葉だけでは,その場限りで,残ることがありません。細かいことは忘れてしまうし,反省を次に生かすにも不便です。私たちが買い物をするにも,たくさんの品物があったらメモをします。だからこそ,記録に残すことが必要だったのです。 漢字を発明した人は,どうしたら話し言葉を残せるかという観点で創り出したのではないでしょうか。 まずは,身の回りのことを絵で表したのではないかと考えます。例えば,下のような具体物を単純化した絵になります。 ところが,描いているうちに面倒になり,絵から文字に移っていったのではないでしょうか。
5 象形文字の誕生 現在の漢字は,絵から少しずつ進化して出来上がりました。これらの漢字の種類を象形文字というのです。「象」というのは,動物のゾウの他に,「すがた」「かたどる」「なぞらえる」という意味があります。気象とか,現象,対象,印象などの熟語にはその意味でこの字が使われています。子供には,「象形文字とは,『形をなぞった』文字のことだよ。」と教えたらいかがでしょうか。
【小学校で習う象形文字】○の中の数字は学年
①雨王火貝九玉月犬口山子糸耳車手十女人水生夕石川足大竹虫田土日入白文木目立力六/②羽夏回角弓牛魚京元原戸古午工交行高黄才止矢自首心西長鳥弟刀東肉馬米母方北毎万毛門用来/③業曲血向皿事主州章乗申身丁豆平面由予羊両/④井衣果鹿求欠氏児臣束単兆飛不阜包未民無要良老/⑤永益示士象比非弁余率/⑥異我革干系己冊至射尺泉片卵
6 指事文字の誕生 身の回りのことは,具体物ばかりではありません。「一」「二」のような数は,形に表すことが難しい言葉です。しかし,線で表せば,次のように表すことができます。
そこで,「一」「二」「三」が生まれたのでしょう。では,「四」はどうなるのかという疑問が生まれます。実は,元をたどると,次のようなのです。
ちなみに,「五」の元は,次の通りです。
数を数えるとき,五つずつのまとまりにしたため,交差のチェックを入れたものと思われます。
数だけでなく,位置関係も決まった絵にしにくいものです。例えば,「上」「下」は,何かの絵を描いて示せば何となく分かります。しかし,いちいち絵を描いていたのでは大変です。
そこで,1本の基準線を設けて,短い横線を入れることにより上下の意味を表す文字ができました。それに縦の線が入って進化したそうです。「二」と区別したかったのかもしれません。 「本(もと)」は,「木」の根元に印を付けてできた漢字です。「本」を「ほん」と読むのは,書写の元が書物であったため,書物を「本」というようになったそうです。 「夫」は,成人を表す「大」に,冠のかんざしを表す印を上に付けてできた漢字で,成人の男性を表します。 「指事」の「指」というのは,「方向を示す。」という意味です。「事」は,「事柄」のことです。子供には,「指事文字とは,『伝えたい事を指す』文字のことだよ。」と教えたらいかがでしょうか。抽象的な意味を表すのですから,「指示」文字ではありません。
【小学校で習う指事文字】○の中の数字は学年
①一五下三四七小上中天二八本/④夫末/⑥寸
7 会意文字の誕生 物事は,まだまだたくさんあります。漢字を創るという観点から考えると,何らかの意味をもたせた方が書きやすいし,忘れにくいです。 そこで,考えられたのが,漢字を組み合わせる方法です。象形文字や指事文字の誕生により,それらをいくつか組み合わせることで,たくさんの漢字を創り出すことができました。 例えば,次のような漢字です。
山(象形)+石(象形)=岩(山のような石) 口(象形)+鳥(象形)=鳴(鳥が口ですること) 日(象形)+月(象形)=明(窓から月の光が入る) 口(象形)+儿(象形)=兄(世話をやく人)
指事文字が少ないので,ほとんどが象形文字同士の組み合わせです。
「会意」の「会」の旧字は「會」。「ほどよく合わせる。」という意味です。「意」は,「意味」のことです。子供には,「会意文字とは,『意味と意味を会わせるとちがう意味になる』文字のことだよ。」と教えたらいかがでしょうか。
【小学校で習う会意文字】○の中の数字は学年
①音休見出森正赤先男名林/②引家会楽間岩兄計後公光黒今算思弱春少食図走多知昼電同麦父歩明鳴友里/③安員央屋化寒宮去区具庫祭死者取集宿真世全相息族対畑皮美品負役旅/④以位印加害官希器共芸建好康辞祝初信折争倉巣卒孫帯典必兵別法利料量令連労香栃/⑤因衛易久興再妻罪支制設素断婦武保暴夢綿告史得/⑥延灰看危郷筋孝降骨困宗衆従処専染善奏存乳班奮並亡枚胃舌退
8 形声文字の誕生 世の中の物事は,もっともっとたくさんあります。 会意文字も含めて,漢字をもっと組み合わせて創らないと到底足りません。 そこで,一方が音,もう一方が意味を表す漢字を創ったわけです。 例えば,「板(はん)」は,意味を表す「木」と音を表す「反(はん)」でできました。「版」は,平たい板という意味を表す「片」と「反」でできています。漢字の大半は,この方法で創られています。 このようにしてできた文字を形声文字というわけです。「形声」の「声」の旧字は「聲」。「耳に達する高い音」という意味です。子供には,「形声文字とは,『声(音(おん))が付いた形になっている』文字のことだよ。」と教えたらいかがでしょうか。 形声文字は,その誕生の背景から,読み方や意味が分かるものがあります。 子供たちには,小学校では習わない漢字の読み方や意味を問うクイズを出すなどで関心を高めたいものです。
「泡」(あわ)…さんずいは水の意味。包は「ホウ」と読む。 「捻」(ひねる)…てへんは手の意味。念は「ねん」と読む。捻(ねん)挫(ざ)。
こうして,形声文字は,象形・指事・会意文字ではできないその他の漢字として創られていったのでしょう。だから,漢字には4種類しかないのです。逆に言えば,全ての漢字は4種類に分けられるのです。