いつの頃からか、理科の実験で使うガラス製の平皿を
「ペトリ皿」と言うようになりました。自分が子供の頃から、「シャーレ」と呼んできたのに、呼び方が変わったんだと思っていました。気にも留めずに時だけが過ぎていきました。
ところが、ある日、子供たちの前で、「シャーレ」と口にしてしまったのです。「それは何?」と聞かれて、「ペトリ皿」として慌てて訂正。「昔は、『シャーレ』と言っていたんだよ。シャレているでしょ。」などと言って、それ以上、何も説明できませんでした。
そこで、その違いを調べてみました。
シャーレ[Schale (ドイツ)]
〘名〙底の浅い、ガラス製のふた付き容器。細菌の培養などに用いる。ペトリ皿。
明鏡国語辞典 第二版 (C) Kitahara Yasuo and Taishukan, 2011-2018
他社の国語辞典でも同じような表現でした。つまり、シャーレとペトリ皿は同じ物です。シャーレがドイツ語、ペトリ皿(petri dish)が英語であることから、その由来を調べてみました。すると、この容器は、ドイツの細菌学者、ユリウス・リヒャルト・ペトリ(1852 - 1921)が発明したことが分かりました。ペトリが発明した皿なので、「ペトリ皿」というわけです。ドイツ語のシャーレは、「皿」「鉢」「コップ」という意味なので、必ずしもペトリ皿を表していないために、英語のPetri dish「ペトリ皿」という名前が脚光を浴びたのではないでしょうか。
同じようなことが、他にもあります。「ゼッケン」と「ビブス」です。自分が子供の頃から、体育着に付ける識別布のことを、「ゼッケン」と呼んできました。「ビブス」という言葉が登場してから、「何、それ? 『ゼッケン』と言わなくなったの?」と、思うばかりでした。では、子供たちの体育着に付いている名前が書かれた布は、何て言うのでしょう。
そこで、その違いを調べてみました。
ゼッケン
〘名〙スポーツ選手や競走馬が胸や背などにつける番号を書いた布。また、その番号。
◇ドイツ語のDecke(馬の鞍下(くらした)に敷く毛布)からとも言われるが語源未詳。
明鏡国語辞典 第二版 (C) Kitahara Yasuo and Taishukan, 2011-2018
ビブス
あらかじめ数字などが印刷されたビブス状または布に肩紐などがついたものを、ユニフォームの上に着用するタイプのゼッケン。薄手でメッシュ状のものもある。駅伝など - ゼッケンの表示が厳密に定められつつ直前に出場者の交替がありえる競技で用いられる。一般に開放された市民マラソンなど - 簡易に参加者を識別するために用いられる場合も多い。バスケットボールやサッカーの練習 - チーム内での紅白戦を行うときにも、練習着や体操着の上から着用するかたちでよく用いられる。競技場においてフィールド内での撮影許可を受けた報道フォトグラファーの識別にも使用される。
ウィキペディアフリー百科事典より抜粋
つまり、ビブスは、ゼッケンの一種であることが分かりました。昔にはなかったタイプのゼッケンというわけです。ですから、本校の体育倉庫にあるものを指すときは、どちらを使っても正解です。そう考えると、子供たちの体育着に付いている名前が書かれた布は、「ゼッケン」と言うしかありません。
ところで、ビブスの綴りは「bibs」で、英語です。「よだれかけ」を意味するそうです。英語ですので、国際的に使われているそうです。「ビブス」という言葉を知ると、「ゼッケン」が古めかしい感じがしてきます。
こうして、言葉は、新しい物ができるたびに変わっていくのだとしみじみ感じました。
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