教員の働き方改善・改革案11
児童のために
「児童のために」という言葉は、教員にとって究極の使命です。
このことをなくして教育の発展はないと思います。
しかし、時間は限られています。あなたが倒れたら困る人がたくさんいます。
児童のために、自分や家族のために、そして、仲間を助けるために働き方改革を考えましょう。
今回の特集は、「宿泊行事でできる教員の働き方改革」です。
宿泊行事の実施に際しては、しおりが必ず作成されます。
児童のしおりを見ると、宿泊行事のねらいが次のように書かれていることがあります。
(1)雄大な自然や文化,歴史を体験的に親しみ,興味・関心を高める。
(2)何をするべきかを考え,自分から進んで行動する。
(3)規律ある集団生活を通して,友達と協力したり助け合ったりする。
これだけを見ると、わざわざ宿泊をする必要があるかと思います。体験なら日帰りでもできますし、集団生活なら学校でもできます。
しかし、数多くの学校行事の中で、大人になるまで記憶に残っているのが宿泊行事です。これを読んでいらっしゃる方もそうではないでしょうか。担任の先生の授業など1つも覚えていないのに、宿泊行事の思い出の断片は残っているなんてことがあるほどです。
では、宿泊行事は、児童の思い出つくりのために行うのでしょうか。
この問題を考えるには、やはり学習指導要領にどのように書かれているかを知るべきでしょう。小学校学習指導要領解説 特別活動編 学校行事の(4) 遠足・集団宿泊的行事 ①遠足・集団宿泊的行事のねらいと内容に次のように書かれています。
自然の中での集団宿泊活動などの平素と異なる生活環境にあって,見 聞を広め,自然や文化などに親しむとともに,よりよい人間関係を築く などの集団生活の在り方や公衆道徳などについての体験を積むことがで きるようにすること。
赤字にしたのは私ですが、この引用文と児童のしおりにあるねらいを比べてください。「平素と異なる生活環境にあって」という重要な部分が抜けてしまっていることに気付くかと思います。
引用を続けます。
遠足・集団宿泊的行事のねらいは,次のとおり考えられる。
校外の豊かな自然や文化に触れる体験を通して,学校における学習活動を充実発展させる。また,校外における集団活動を通して,教師と児童,児童相互の人間的な触れ合いを深め,楽しい思い出をつくる。さらに,集団生活を通して,基本的な生活習慣や公衆道徳などについての体験を積み,集団生活の在り方について考え,実践し,互いを思いやり,共に協力し合ったりするなどのよりよい人間関係を形成しようとする態度を養う。
楽しい思い出をつくるために宿泊行事をしていいのです。このことも児童のしおりのねらいから抜けています。ただ、注意しなくてはいけないのは、楽しい思い出の意味です。学習活動の充実発展と人間的な触れ合いによる楽しさで楽しい思い出をつくるということです。
このようなねらいから考えると、1泊2日で十分です。なぜなら、教員の働き方が過酷だからです。どのような点が問題でしょうか。
1 休憩もない長時間労働
当日の朝は、早いです。もちろん勤務時間になっていません。全員が遅刻せずに集まるなんてまずまれです。遅刻をするような児童の家庭は、学校に連絡する余裕がありませんから、担任が家庭に連絡しなくてはいけません。
バスに乗れば、酔う児童はいないかとか、トイレは大丈夫かとか、ふざける児童はいないかとか配慮をしなければなりません。それでいて、バスの中でも楽しく過ごせるようにするのも、ガイドさんの話をよく聞くようにするのも担任の仕事です。
トイレ休憩をするときには、安全に気を配り、交通事故がないように目を光らせます。バスから降りた途端に吐いてしまった児童もいました。トイレ休憩がまだ先の時に、トイレに行きたいと言い出した児童のために、必死になったこともあります。
やっと目的地に着くと、司会役の児童がきちんとできるかどうか、全体が姿勢良くできているかどうか気を遣います。できていないと、必ず事前指導不足と言われます。それでも、児童ができて褒められると、担任も嬉しいものです。
入浴では、教員男女1名ずつが担当につかなくてはなりません。集団での入浴の経験が少ない児童がおり、脱衣所の床を濡らさないようにさせたり、忘れ物がないようにさせたりしなくてはなりません。アンダーウエアの忘れ物は特に困ります。児童本人が自分の持ち物かどうか分からないことが多いものです。忘れ物や落とし物があると、多大な時間が取られるのです。
食事は、アレルギーの児童に配慮しなければなりません。万一の失敗は、命にかかわるので、必死です。夕食のあとも、何かしら行事があります。キャンプファイヤーやお楽しみ会など、その運営に四苦八苦します。
寝具を用意するのも、児童は全然慣れていないので、ふとんや枕や毛布にカバーを付けることがなかなかできません。できる児童が中心となって動くのですが、教員が手伝う必要があります。また、喘息がある児童は、埃を避けさせるため、部屋の外に出すこともしなければなりません。
発熱があろうものなら、今のコロナ禍では、もっと大変です。
児童は、夜、なかなか寝ません。教員は、何時間も見守らなければなりません。さらに、夜尿症があるので夜中に起こしてくれという保護者の要望でトイレに行かせたり、深夜に児童同士のトラブルで対応しなくてはならなかったりして、なかなか眠れません。教員の入浴は、いつも深夜です。
しかも、児童は朝が早いのです。4時に起きてしまう児童もいます。事前に他の児童に迷惑にならないようにさせても、どんどん起きてしまう児童が増えてしまいます。3泊4日の宿泊行事になると、教員は体調がいつ壊れてもおかしくない環境に置かれています。児童が楽しい思い出をつくるために、教員はずっと頑張っているのです。
2 実質的な保障のない勤務時間の割り振り
労働基準法では、勤務時間は8時間(東京都は7時間45分)であるため、校長は宿泊行事に従事する教員に対して、時間外勤務を命じることになります。そして、超過した時間については、勤務時間の割り振りを行います。例えば、1日に付き2~4時間を数回に渡って4週間以内に、勤務時間から減らしていくのです。計画を先に提出させられる場合もあり、それを作るにもまた時間がかかります。
しかし、仕事が減るのではなく、仕事をする時間が減るだけで、何ら解決になりません。帰りたくとも帰れない日が続きます。そのうち、4週間があっという間に過ぎてしまい、結局、私はとれませんでした。4週間ではなく、年度中に、という規定になったらと思います。
3 宿泊行事でできる教員の働き方改革 当たり前と思っていることを見直しましょう。
一番よいのは、教育委員会の英断で1泊2日にすることです。1泊なら不安に思っている児童も参加しやすくなります。荷物も少なくなります。が、それはままならないことでしょう。ならば、学校で工夫するしかありません。
(1) 学校でできるようなお楽しみ会をやめる。
宿泊行事は、平素と異なる環境にあって行う教育活動です。もし夜の活動をするならば、キャンプファイヤーとか、星空観察などの学校では体験できないものにしてほしいです。
(2) 合同行事はやらない。
1校だけでなく、数校が同じ宿泊場所に泊まることがあります。入園式や退園式は仕方がありませんが、合同キャンプファイヤーとか合同お楽しみ会などは、教員の働き過ぎにつながりがちです。打ち合わせ等の準備や児童に対する指導が必要だからです。
(3) 児童の自由な時間を増やす。
児童が一番好きな時間は、自由な時間です。本当の自由とは、自分勝手ではなく周りに迷惑をかけないことで得られる心地よい状態です。この時間を増やしてあげることが大切ではないでしょうか。
(4) はがき書きをしない。
夜に、はがきを書かせてポストに投函するサービスまでしました。児童は、おや宛てに1日目の様子を書いていました。以前は、よい機会になるからと思っていましたが、今は、児童のために少しでも自由な時間を増やすほうがよいと考えます。
(5) 参加承諾書
きちんと保護者が便りを見るかどうかが心配で、参加承諾書をとることが多いです。それを集めるのもまた大変です。学校行事なのだから、参加承諾書はいらないとは思いますが、どうしても必要なら、説明会の日にその場で書いていただいたらいかがでしょう。たくさん集めることができます。
(6) 宿泊行事が終わった次の日の学校行事は避ける。
宿泊行事がある日々は、教員にとって、緊張の連続で睡眠時間も少なく、大変疲れます。児童にとっても平素と異なる環境なので、疲れることでしょう。その上、宿泊行事が終わった次の日にまた学校で行事というのはいかがなものでしょう。
例えば、2泊3日の宿泊行事でも火曜日から始まれば、金曜日がお休みではありません。児童も教員も学校に行くのです。その日に授業参観などがあると、その学年の負担はかなり大きいです。せめて、次の日ぐらいは、そのような学校行事を避けたいものです。これは、年間行事を計画する段階で配慮します。
私は、高学年の担任ばかりで、ほとんど毎年のように宿泊行事に参加しました。宿泊行事は、児童が大変楽しみにしていることは分かっています。しかし、宿泊行事の当日までの準備も、終わった後の仕事も山ほどあります。改革を進めて、働き過ぎがなくなるようにしてほしいです。
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