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執筆者の写真kazu

置き勉は、教員の働き方改革になるのか

教員の働き方改善・改革案19

なかなか改革ができないのは

 教員の業務を減らさなくてはいけないことは分かっています。

 改革案のいくつかは「もっともだ。」と思われているのではないでしょうか。

 でも、なかなか改革ができません。それをするためのエネルギーがいるのです。それを提案するくらいなら、今のままでいいやと思ってしまうのです。

 誰かがやらなければ、変わりません。できることから始めてみませんか。 

 

 今回の特集は、「置き勉は、教員の働き方改革になるのか」です。


 「重すぎるランドセルが“キャスター付き”に! 小学生が考案した「さんぽセル」に反響」という記事がありました。

 それだけランドセルが重くなってしまったのです。昔よりも教える教科が増え、教科書が大型化して厚くなり、副読本やドリル教材、学習用PC、その上最近では暑いので水筒まであるとなると、重くなったのは当たり前と言えます。

 この「さんぽセル」は、小学生や保護者が学校に寄り添った形で生まれたものです。教員には負担をかけずに現状を変えようとした試みですので、評価されるべきことです。


1 文部科学省では


 文部科学省では、「携行品への配慮に関する事務連絡」(平成30年)の通知を出しています。引用します。 

 

 教科書やその他教材等は、宿題や予習・復習などの家庭での学習課題を適切に課す等、 家庭学習も視野に入れた指導を行う上で重要なものです。 各学校においては、このような重要性を踏まえつつ、教科書やその他教材等のうち、何 を児童生徒に持ち帰らせるか、また、何を学校に置くこととするかについて、保護者等と も連携し、児童生徒の発達段階や学習上の必要性、通学上の負担等の学校や地域の実態を 考慮して判断いただいていると考えておりますが、別紙の工夫例を参考とされるなど、児 童生徒の携行品の重さや量について改めて御検討の上、必要に応じ適切な配慮を講じてい ただきますようお願いします。

 

 その通知には、「児童生徒の携行品に係る工夫例」が具体的に挙げられ、大変参考になります。ただその工夫は、児童や保護者のためになる視点で取り上げられています。学校では、こうやって頑張っているといるということを伝えているだけで、教員の働き方改革の視点では考えられていません。工夫することがかえって教員の業務を増やすことになってしまったのでは、ますます教員の負担になってしまいます。やるからには、児童にも保護者にも教員にもよいことをするべきでしょう。


2 置き勉にはどんなものがあるか


 初めに、置き勉にはどんなものがあるかを挙げてみましょう。

 私が担任した5年生(28人)の例を挙げてみます。置き勉をしたものに○を付けてみました。△は、必要な時(単元)だけ置いておいたものです。

教科名

教科書

ノート

副読本・教材

国語

×

×

×漢字ドリル

書写

○半紙ばさみ

×毛筆書写用具

社会

○地図 ○資料集

算数

×

×

×算数ドリル

理科

音楽

△リコーダー

図画工作

△絵の具

家庭

△裁縫用具

体育

○保健

×体育着

道徳

外国語

その他

×学習用PC

 

○東京都や区から配布される副読本

 こうしてみると、かなりの物が学校で管理できることになります。問題は、置き勉をすることが果たして教員の働き方改革になるかということです。


3 教員の働き方改革の上での置き勉の問題点


(1)保管場所がない。


 上の表をご覧になっても相当な量だということが分かります。ロッカーの上やフックをその置き場所とすることで、荷物が教室にあふれます。40人近くの児童ではまず場所がなくてできません。

 文部科学省の例にある、「特別教室で使用する学習用具の一部について、必要に応じて、特別教室内 の所定の場所に置くことにしている。」という工夫は、確かに素晴らしいことですが、そのような余裕ある特別教室は少ないと思います。


(2)配布と回収の時間が必要になる。

 

 一人一人が持っていれば、「机の中から出しなさい。」「机の中にしまいなさい。」の一言で済みます。

 ところが、置き勉にすると、保管場所から自分の手元に持って来なければなりません。持ってくるのは、自分自身か、当番の児童でしょう。そういった配布と回収の時間が必要になります。

 

(3)回収の手間が必要になる。


 回収では、本当に全員の分が集まったかどうか確認する手間がかかります。数を数えたり、保管場所にしまったりする業務は、教員の働き方改革の上で、デメリットになります。


(4)紛失やいたずらのリスクが発生する。


 学校に置くということは、学校で管理するということになります。紛失やいたずらのリスクは増えます。


 この他、「忘れ物をしないトレーニング」のために、置き勉をさせないという教員がいます。わざわざ全ての教科書を持ち帰らせて、毎日トレーニングをさせるなんて、非能率的なことを教えるようなことではありませんか。

 それに、そのようなトレーニングをさせることは、教員の業務にありません。


4 教員の働き方の改革としての置き勉のメリット


(1)忘れ物が少なくなる。


 教員が連絡を忘れて、多くの児童が教科書を持って来なくて授業ができないということはなくなります。教員のストレスが少なくなります。

 特に、専科の道具などを忘れる児童が多いクラスでは、担任が専科教員に責任を問われることがあるので、置き勉は効果的です。

 また、ワークシートとじは教員が管理しておかないと、児童の一部がずるずると乱れていきます。


(2)児童の荷物の整理がスムーズになる。


 児童の荷物が少なくなり、朝や帰りの荷物整理が早くなるので、教員のストレスが少なくなります。


(3)児童に寄り添ったことで児童や保護者に感謝される。


 以上のことから、置き勉は、方法をよく考えないと教員の働き方改革としてのメリットが小さいです。単に児童や保護者に寄り添うだけでは業務が増加するだけです。


5 教員の働き方改革を考えた置き勉の方法


(1)担任は、児童が家に持ち帰ってはいけない物を決め、保管場所を指定する。


 道徳、書写、保健、家庭の教科書、そして、地図帳や音楽の道具は、児童が忘れやすいものです。これらは、置き勉にした方が教師のストレスが少なくなります。

 道徳や書写、家庭のような教科は1週間に1回程度なので児童用ロッカーを活用し、保健はたまにしか使わないので教師用ロッカーの中に入れておくようにすると、便利です。

 音楽の道具は、専科教員とよく相談の上、一式をバッグに入れさせてフックにかける方法がよいと考えます。


(2)担任は、専科教員と連携を図り、必要な物を必要な期間だけ学校に置かせる。


 鍵盤ハーモニカや絵の具、裁縫用具などは、ある一定期間だけ必要な場合があります。それらは、場所を指定して保管します。紛失やいたずらのリスクを減らすために、必要のない期間は持ち帰らせます。


(3)担任は、児童が毎日家に持ち帰らなければいけない物を決める。


 例として、(健康観察カード、連絡帳、音読カード、漢字ドリル、算数ドリル、宿題・手紙)をメッシュケースに入れさせ、毎日持ち帰らせます。あとは、学習用PCです。


(4)担任は、児童が机の中に置き勉してよいものを決め、児童に選ばせる。


 国語、社会、算数、理科、外国語については、机の中に置き勉してよいものとします。児童自身に選ばせます。

 この方法では、例えば、国語と算数を必ず持ち帰らせようとしても、そのうちきまりを破る児童が出現します。指導する時間が生じ、教員のストレスが大きくなるので、自由とした方が教員の働き方改革になります。

 

(5)毛筆書写の用具は、持ち帰らせる。


 書写の授業があった日は、汚れた筆だけ持ち帰り、その他の用具は学校に置くことを認める教員もいます。1週間ごとに1時間のペースで書写がある場合は、それでもよいかもしれません。しかし、2週間ごとに2時間のペースの場合は、用具が邪魔です。

 また、ケースが教室に残されていることから、汚れた筆を持ち帰ったのかどうかは見ただけでは分かりません。また、汚れた筆だけの始末なので、ランドセルを汚す可能性もあります。そのようなことは、児童の責任と捉えれば楽なのですが、それができない場合は、教員のストレスになります。

 ですから、私でしたら毛筆書写の用具は持ち帰らせます。

 ただし、半紙ばさみは、大きくて通学には危険なので回収して学校保管にします(使用している場合)。


6 置き勉をする場合の注意事項


(1)年度初めに、児童と保護者に置き勉のルールについて説明するプリントを配布する必要があります。


(2)学校に持ってくる日、家に持って帰る日に物が集中しないようにします。


(3)机が重くなるので、学習用PCは、ロッカーの中でしょうか。ランドセルの中でしょうか。

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